社団法人日本消費生活 アドバイザー・コンサルタント協会 理事
ここ数年企業による不祥事が相次ぎ、信頼を裏切られた消費者の企業に対する見方はその厳しさを増しています。但し、これらの不祥事は、企業の怠慢な経営を放置してきた消費者にも責任があります。消費者が厳しくなれば、企業の情報公開も進み、経営も健全化されていきます。
一つは緊張感が足りないと思います。また消費者と企業の関係は、親と子のような関係も望まれます。消費者が「親」であり、企業が「子」なのです。
親が子どもを立派に育てるには、子どもが悪いことをしたら叱り、良いことをしたら心から誉める必要があります。同様に、企業が不祥事を起こせばそれを批判し、良い取り組みをすれば誉めるという評価をすることが消費者には求められるのです。特に今後は「誉める」ことが重要だと感じています。私はある百貨店のお客さま相談室のアドバイザーをしていますが、消費者の声がいかに影響力を持つか常日頃感じています。お客さまから数多くの苦情が寄せられる中、時にはお褒めの言葉をいただくことがあります。
その言葉を関係売り場に伝えると職員は本当に喜び、その言葉を励みにして更にサービスの向上に努めてくれます。近年企業は環境や社会への取り組みを強化しており、その成果などをまとめた環境報告書を作るなど情報公開も進んできています。消費者はこういった企業の取り組みを評価してそれを企業に伝える必要があります。企業は消費者によって育てられるのです。
企業は社内で働く従業員の声にも耳を傾ける必要があるのではないでしょうか。従業員一人ひとりが満足して働いていなければ、外の消費者に満足を与えることはできないと思います。業種によって異なるとは思いますが、百貨店など直接消費者と接する企業では、従業員が満足して働いていれば必ずプラスになって接客にあらわれ売上に結び付いていきます。コスト削減が必要なのは理解できますが、給与カットやリストラなど従業員の意識にマイナスに働く取り組みのみでは、従業員のやる気をなくさせてしまいます。是非企業には社内で働く人たちの声も十二分に聞き、皆が満足して働ける職場作りにも積極的に取り組んでいってもらいたいです。
先程話に出てきた環境報告書についてですが、自社の環境・社会への取り組みを広く一般の方々に知ってもらうために企業が主体的に発行している点で、私は企業を高く評価しています。但し、実際には環境報告書への消費者の反応がとても薄いようですから、企業の側も報告書の内容に創意工夫をして、コミュニケーション不足を解消する努力を続ける必要があります。
持続可能な社会を実現させるためには、少しでも多くの消費者の方々に環境に配慮した商品を選択していただきたいと思います。日常生活の中で、常に環境への配慮を怠らず、車なら少しでも排出ガスの少ないもの、冷蔵庫なら消費電力量の少ないもの,フロンガスを出さないものを選ぶことが求められます。消費者が選ぶもの、買うものは、たとえ環境に悪影響を及ぼすものだと分かっていても企業は生産し続けます。このところ、100円ショップなどをはじめとするディスカウントストアが増加しています。安くモノを買ってしまうと、どうしても粗末に扱い、必然的に廃棄物を大量に出してしまいます。
安くて良い商品もあるかもしれませんが、環境に悪影響を及ぼす素材が使われていることもあるでしょうし、もしかしたら発展途上国で不当に安い賃金で雇われた人々に作らせたものもあるでしょう。安さにはそれなりの理由があることを消費者は探れなければいけません。消費者はいいモノを見極める目を持って厳しく商品を選択するべきです。消費者のモノ選びが企業のモノ作りを決定することを自覚するべきだと思います。
消費者の環境への意識は近年たいへん高まってはいるものの、実際に商品やサービスを選ぶ時は価格やデザインをどうしても優先しがちです。環境配慮のみをアピールした商品の場合、「地味」「面白みに欠ける」といった否定的なイメージで見てしまうこともあります。
消費者は、価格、デザイン、品質、機能、環境の全てにおいて、優れた商品を求めているのです。企業はこういった消費者の購買行動を分析した上で、環境に配慮した商品の開発に取り組む必要がありますね。
環境先進国のスウェーデンでは政府とNGOが一丸となって環境ラベルの普及のための教育を実施した結果、ほとんどの消費者が環境ラベルについての知識があり、環境ラベルの付いた商品を優先的に購入するようになったという経緯があります。日本で消費者の購買行動を変えるには、「エコマーク」や、その他各種の信頼できる環境ラベルを消費者にいかに普及するかどうかにかかっていると思います。
2000年にJISで環境ラベルが規格化されてからは、エコマークの基準の改定もどんどん進み、現在ではスウェーデンの基準と同等、またはそれ以上の水準を確保しており、数多くの商品に付くようになってきています。それでも残念ながらまだあまり消費者の購買行動につながっていないのが現状です。
その理由として、販売側が店頭でエコマーク付きの商品を目立つ位置に陳列していないということが一つ考えられます。販売側には、消費者が環境に配慮した商品のあることに気付き、自然に選べるように、エコマークのついた商品の陳列に工夫をする必要があると思います。もう一つの理由は、エコマークの場合、 1988年に制度ができた当初、その普及を促進するために基準が甘く設定され、価値が薄れてしまったことが考えられます。
環境有識者を中心にエコマークの基準の甘さに対する批判の声が高まり、結果的に普及が遅れたのではないでしょうか。現在ではエコマークの基準は当時とは比べものにならないほど厳しく、十分信頼できるものとなっていますので、エコマークの付いた商品を購入していただきたいと思います。
環境ラベルを企業が自己宣言で使うには、消費者に誤解を与えないために、JISでは用語の使用条件やその検証方法に厳しい決まりがあります。例えば、再生紙だったら何%以上の再生原料を使用しているかを証明する必要がありますし、リサイクル可能であれば、本当にリサイクル回収して再利用できるシステムがあるかを証明する必要があります。
しかし、残念ながら玉石混合で、これらのデータを持たずに環境に配慮していることのみをアピールするラベルやマークも多数店頭に並んでいるのが現状です。このため、ラベルやマークの信憑性が薄れてしまっており、逆に消費者の混乱を招いています。この点については、足を引っ張る企業には改善を求め、消費者は声をあげていくべきだと考えています。
お互いが密なコミュニケーションを取り、声を形にし、共通のゴール「持続可能な社会の実現」に向かい一緒に進んでいくのが健全かと思います。
もう一度繰り返しますが、消費者のモノ選びが企業のモノ作りを決めるのです。良い「親子関係」を築いていきましょう。
社団法人日本消費生活 アドバイザー・コンサルタント協会 理事
教職を経て1985年消費生活アドバイザー資格取得。1998年から協会理事、環境委員会委員長。
1985年より都内百貨店でお客様相談も。
経済産業省産構審環境部会や環境省中環審総合政策部会などの委員も務める。
生活者の立場からごみリサイクル関連や環境コミュニケーションの分野で発言。
日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会(通称NACS)は1988年に通商産業大臣の許可を得て成立した社団法人です。
NACSは、消費生活アドバイザーまたは消費生活コンサルタントの資格を持った個人からなる消費者問題の専門家集団です。
7つの支部が全国にあり、現在約3,860名の会員がいます。
電話相談、消費者教育、生活情報誌の発行、シンポジウムの開催など主として企業と消費者との間にあるさまざまなギャップを埋めるような事業を行っています。また、企業の消費者対応部門や,広報部門で活躍する会員もいます。
2003年12月9日