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日本人は行政に対しても企業に対しても受身すぎます。もっと自ら求めていかなくてはいけません。

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緑川芳樹

グリーンコンシューマー研究会 代表

vol.8 自立した消費者へ

グリーンコンシューマーの活動とは?

グリーンコンシューマー研究会はどのような活動をしているのですか?

研究会のメンバーは10人で、全員が世話人という肩書きです。消費者に対しての世話人ですね。ネットワークの形成と参加を主たる活動にしています。ネットワークの中で大きなところには グリーン購入ネットワーク(GPN)がありますが、これには結成準備から参画していました。GPNは消費者と企業、行政の三者構成のネットワークです。そのほかには市民団体のグリーンコンシューマー全国ネットワークなどがあります。各ネットワークでは、商品なり企業なりを環境の観点から評価して、その情報を消費者に対して発信していく活動を行っています。手段としては、フォーラムや研究会の開催と、啓発資料や書籍などの出版が中心です。企業は商品に関する情報提供を適宜行ってはいますが、消費者に必要な情報は企業からの情報だけでは不十分です。私たちのような第三者による情報も必要です。こういった情報提供は、欧米では非常に積極的に行われていて、第三者機関による商品テストをもとに総合的に商品を評価する商品テスト雑誌が日本とは比較にならないほどの部数で発行されています。また、消費者活動に対し国が支援を行っていることが多いですね。なぜなら、こういった形での企業活動を評価・選別するための情報提供や支援は、公正で、環境に配慮した事業活動を促進し、品質やサービスの向上はもちろん、消費者の自覚・自立にもつながるからです。

また、最近ではグリーンコンシューマー研究会単独での活動も始めました。今取り組んでいる活動が、『お店の有機食品品揃え調査−有機のあるお店はどこかな?』です。首都圏の約20店舗を訪問し、有機食品の品揃え状況を調査しています。2001年に有機JAS法ができましたね。有機食品の割合が耕地面積で一番高い国はイタリアで8%、欧州は概ね5%程度、米国は1%ですが、日本は欧州の数十分の1の0.1%以下といわれています。有機食品の品揃えは店によって随分と差がありますから、私たちの調査結果は、環境・健康・安全を考えて食品を選ぶ消費者にとって、店を選ぶための重要な情報源として役に立つと考えています。また、その店に独自のこだわり食品があるか、地場産業を大事にしているかといった状況もよく分かる内容になっています。調査内容は、できる限り明確で簡単なものにして、私たちだけでなく、地域の市民団体やNPOの方々にも実施していただけるようにしていきたいと考えています。

モノの買い方、使い方、捨て方を見直すこと

グリーンコンシューマー研究会が提唱する「グリーンコンシューマー」とはどのような消費者ですか?

簡単に集約すると、「購入の必要性、商品の環境負荷と企業の社会的責任を考慮して商品やサービスを選ぶ自立した消費者」をいいます。(参照:『グリーンコンシューマー10原則』) 残念ながら、日本の消費者はまだまだですね。環境負荷を考慮するといっても、環境問題は多様です。例えば、家電製品ですと、最近の製品はどれも省エネという直接消費者メリットにつながる切り口からエコロジーを謳っており、一般にも浸透してきました。良いことには違いありませんが、消費者には、環境問題が地球温暖化防止だけでなく、化学物質の削減や資源循環、生態系保全などもっと多様なものだと理解してほしいです。

そこで私たちは、必須要件として、資源採取、製造、流通、使用・再使用、リサイクル、廃棄という製品ライフサイクルの各段階でどのような環境負荷が起こっているのかを考慮した購入の基準やガイドラインを作成し、情報を提供しています。まずはモノの買い方、使い方、棄て方を見直すことですね。また、次のステップとしては、環境だけではなく、CSR(企業の社会的責任)の観点を取り入れることが必要になってくると考えています。

内部告発で公正の実現を求める

様々な企業の不祥事が発覚した近年、消費者の企業に対する監視の目は厳しさを増していると思いますが、消費者の意識に変化は見られますか?

これまで日本人は、不祥事があれば買い控えをし、ほとぼりが冷めて元に戻るという消費行動を繰り返してきたことを考えると、変化が見られるのも確かです。ここのところ不祥事や不当な取引、人権・雇用問題から企業に対する社会的な目がグローバルに厳しくなってきました。企業としても、EUの求めもあり、ISO の組織の社会的責任に関する規格づくりの取り組みも始まりましたから、環境はもとよりCSRマネジメントづくりに本腰を入れることが不可欠な状況になりました。

日本の社会構造は「個人に組織への同化を求める社会」で、皆が同じように行動し、相互に寄りかかりながら生きている社会でしたが、少しずつ変革の動きがあると私は見ています。社会的公正の実現、組織からの個人の自立や権利の尊重への流れは、公益通報(内部告発)の頻発、不当な取引などに対する消費生活センターへの苦情相談の急増に見られるように確実に強まっています。

乏しい雇用・労働面の開示

消費者が安心して企業の商品やサービスを利用するのに、適切なディスクロージャーが大切であると言われますが、日本企業のディスクロージャーは進んでいるのでしょうか?

私たちは環境報告書やCSR報告書の評価活動も行っていますが、コンプライアンス体制の整備とともに,事故や不祥事についてはかなりの企業で開示され、原因究明や是正措置に触れられています。部分的には前進している面がありますが、パフォーマンス開示全般を見ると、例えば労働分野の全体像を開示している事例はなく、まだ評価できるものが無いのが現状ですね。製品については自動車の安全性の取り組み、食品の品質管理などの開示事例が見られます。しかし、製品の苦情についてどのような内容のものがありどう処理したかについては開示がありませんし、特に食品製造業は商品の環境に関する情報開示が一番遅れていて、環境報告書では最近まで商品については容器包装だけしか取り上げてきませんでした。

中でもいま日本で最も必要なのは、雇用・労働の分野での公正なシステムの形成とその開示です。これは業界を問わず今一歩進んでおらず、そのシステム形成自体が未だ混沌としています。採用や退職に関して、正規社員を減らし不安定な雇用を増やしています。欧米では、リストラ(整理解雇)には社会的なルールとして職場の勤続年数の短い順の解雇基準があるのに対し、日本はまったくルールがなく不透明です。また、過労死の労災認定も増え、サービス残業が恒常化していますが、その実態についても説明責任がありません。近年成果主義賃金体系が一気に増えましたが、多くが人件費を減らすための手段になってしまっています。どういう労使関係、賃金体系が望ましいのか、労使ともにビジョンを欠いています。消費者は商品やサービスだけではなく、企業のCSR全体を評価することが大切です。どんな社会にしていきたいのかの建設的な議論をしていくためには、まずはビジョンづくりから始めなくてはいけません。CSRのディスクロージャーはまだ始まったばかりと言えるでしょう。

消費に対する哲学を持つこと

企業と消費者はどのような関係を築いていくべきだとお考えでしょうか?

食品の売り方に目を向けてください。世界各国を見ると、生鮮食品やコーヒー・豆類、菓子類など量り売りが中心ですが、日本は未だにパック売りがベースになっています。にんじん1本だけ必要でも、パックでまとめ買いしなくてはいけない。環境の見地からも問題ですが、これは売り手主導の売り方です。欧米のように、自分のほしいものを必要な量だけ買わせてくれという、消費者の自己主張がベースになっている買い手主導の方に戻すべきです。

企業には多数の消費者から数多くの問い合わせがあります。苦情もあります。多くの企業で消費者対応のシステムも整備されています。しかし、課題も多くあります。まだまだコミュニケーションが未成熟なため、一方通行に陥っているのが現状です。消費者と企業は情報の開示・提供をベースに双方向のコミュニケーションによって求める・答える、さらに求める・応えるという緊張感のある関係であることが望ましいのです。

最後に、こちらのインタビューをご覧のステークホルダーの方々にメッセージをお願いします。

日本人は行政に対しても企業に対しても受け身すぎます。もっと自ら求めていかなくてはいけません。企業に対しては、環境と安全に配慮した商品の開発と情報の提供を求める必要があります。情報を集める、考えて選ぶ、求めるということが自立した消費者のあり方の基本です。企業が次から次へと新商品を開発し、それに消費者が飛びつくという消費市場には日本独特の特徴があります。欧州では、消費者がそれぞれ自分の購入スタイルを持っていて洋服などを決まった専門店で買う人が多く、バーゲンも日本のようには過熱しません。これらの背景にあるのは、日本人の消費に対する哲学のなさです。自己の消費スタイルをしっかり持つことが望まれます。安いもの、高いものがなぜ安いのか、高いのか、その理由や背景を考えることが必要です。品質、機能、安全、環境、価格の多角的な視点をもって厳しく商品を選択することが、消費者と企業を共に高めていくことになるのですから、消費者の方ももっと成長しなくてはいけませんね。

CSRの‘C’は‘Corporate’(企業)の‘C’だけではなく、‘Consumer’(消費者)の‘C’でもあると考えるべきです。グローバルな流れで企業のCSRが始まりましたが、企業だけの力では限界があります。環境報告書やCSR報告書などの読み手である消費者も努力しなければいけません。そのためにも、受け身にならず、考える、求める“自立した消費者”になりましょう。

PROFILE

緑川芳樹

グリーンコンシューマー研究会 代表

1993年よりグリーンコンシューマー研究会代表。
バルディーズ研究会共同議長(企業の社会的責任について調査研究、提言活動を行っている)、グリーンコンシューマー全国ネットワーク代表世話人、グリーンコンシューマー関東ネットワーク代表世話人、グリーン購入ネットワーク代表理事、サステナビリティ・コミュニケーション・ネットワーク(NSC)幹事、エコマーク運営委員会委員・商品類型策定委員会委員も務める。

講演活動も積極的に行っており、著書としては「グリーンコンシューマーになる買い物ガイド」(共著)、「CSR経営」(共著)の他、論文も多数出している。

グリーンコンシューマー研究会 ウェブサイト

2003年11月12日

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