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経済、環境、社会の三要素を包括した形での情報公開が進み、より公正な企業評価が行われるようになると考えています。

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エルンスト・リヒテリンヘン

グローバル・リポーティング・イニシアティブ(GRI) 代表

持場智雄

グローバル・リポーティング・イニシアティブ(GRI) プロジェクト・マネジャー

vol.5 持続可能な社会へのガイドライン

より公正な企業評価へ

GRIが目的とされていることを教えて下さい。

Ernst  私たちはサステナビリティ・レポーティング(持続可能性報告)を全世界で標準化することを目指しており、企業がサステナビリティ・レポート(持続可能性報告書)を作成する際に活用できる世界共通のガイドラインの作成及び普及活動を行っています。

このガイドラインを基にサステナビリティ・レポートが作成されることで、経済、環境、社会の三要素、いわゆるトリプルボトムラインを包括した形での情報公開が進み、より公正な企業評価が行われるようになると考えています。

クライシスが起こって初めて気づく!?

「持続可能な社会」とはどういう社会をイメージされていますか?また、それは実現可能だと思いますか?

Ernst  持続可能な社会とは、「人間・社会」、「地球環境」、「経済」のバランスがとれていなければいけません。持続可能な社会の実現は容易なことではありません。ですから、「実現不可能だ」と言う人も中にはいるでしょう。しかし、そのように言ってしまっては地球が破滅することを認めることになります。例えば、「御社の経営は存続可能ですか?」とある社長に聞いて、「不可能です。」という答えが返ってきたらどう思いますか?もうその社長は会社が破綻することを容認しているわけですよね。しかし、財源に限界があったとしてもそれを上手に活用することで企業経営を存続させることはできるのです。地球資源についても同様の考え方ができます。地球の資源を上手に活用することで持続可能な社会の実現もできるのです。

繰り返しになりますが、持続可能な社会は容易に達成できるものではありません。これは私個人の考えですが、現在の人々の環境への意識レベルが劇的に変化しない限り、必ずある時点で人類の存続に関わるクライシス(危機的事態)が訪れると考えています。残念ながら、このクライシスが起こった時に初めて、人類全体が環境問題の重大さに気が付くのではないでしょうか。

CSRは先進諸国だけで盛り上がっているようですが、開発途上諸国ではどのような状況でしょうか?

Ernst  多くの開発途上諸国の企業にとって先進諸国で論じられているようなCSRは今のところ縁の薄い話かもしれません。しかし、実際にはCSRに取り組んでいることに気付かずに、CSRに関連した様々な事柄に関わっていることもありますし、中には進んでCSRを企業に推進している国もあります。

例えば、南アフリカのヨハネスブルグ証券取引所は上場企業にサステナビリティ・レポートの作成を要請し、CSRの定着化を図っています。サステナビリティ・レポートの作成により、南アフリカ企業の透明性を高め、先進諸国の企業や投資家からの信頼を獲得し、経済発展を実現することができると考えたのです。著しい経済成長を目指しているブラジルやタイといった国々でもサステナビリティ・レポーティングは注目されています。

ガイドラインは「地図」

GRIは1997年秋に設立されましたが、これまでの最も大きな成果は何でしょうか?

Ernst  最も代表的な成果はやはりGRIガイドラインです。これまで2度にわたる改訂を経てきました。まだ完全版ではありませんが、サステナビリティ・レポートを作成する際にはグローバル・スタンダードとして世界中で使われるようになってきています。現在33カ国で383社(1/13時点)が、ガイドラインを参考にしてサステナビリティ・レポートを作成しています。


私たちは、世界中のあらゆるグループのステークホルダーが経済、環境、社会面での持続可能性についてどのように考えているのかを研究し、全てのステークホルダーが納得できる指標を作成しました。ガイドラインはいわば、ステークホルダーに情報開示する必要性のある項目の「地図」なのです。

「我が社は地図上の全ての地域をカバーするぞ。」あるいは「まだ我が社で全地域は無理だからこの地域からカバーしよう。」という形で、それぞれの企業に無理のない範囲で活用していただければ良いわけです。まだ多くの方が全ての指標を使って報告書を作らなければいけないと誤解しているようですが、GRIガイドラインは実際には非常に柔軟性があります。初期の段階では自社で情報開示が可能な一部の指標のみを適用し、段階的にその数を増やし、最終的に総合的にバランスがとれた「GRI準拠」の報告書に発展していただければいいのです。

GRIガイドラインに「準拠」(in accordance)した形でサステナビリティ・レポートを出している企業はまだ少ないと思いますが、いかがでしょうか?

Ernst  現時点では、「準拠」してレポートを出している組織は全世界で18しかありません。多くの企業にとって、経済、環境、社会性の総合的なレポートの作成はまだまだ試行錯誤の状態で、ガイドラインをいわば参考文献として活用している企業が多いのが現状です。

もしガイドラインに「準拠」した報告書を作成したくても、企業秘密の保持、必要なデータ収拾システムの欠如、事業活動に不適切、といったやむを得ない理由で全ての指標を使えない場合は、巻頭に、どの指標を使わなかったのか、そしてその理由を明記さえすれば、「準拠」しているという表現が使えます。これから徐々に「準拠」した高度なレポートを出す企業が増加することを期待しています。

GRIで理想としているステークホルダー・ダイアログとはどのようなものでしょうか

Ernst  ステークホルダー・ダイアログのあるべき形をGRIで特に定義などはしていません。GRIの名称に「グローバル」という言葉が入っているように、私たちの考えもグローバルで、国ごとに異なる文化、風習、価値を活かした形でのステークホルダー・ダイアログが開催されていることを尊重しています。

ステークホルダー・ダイアログはもともと欧米から出てきた概念ですが、どちらかと言えば今ではアジアの国々でより積極的に行われているようです。どうやらアジアの価値観と合うようですね。ダイアログを通じて企業にとって事業に活かせるような意見が出ることもあるでしょうが、何よりもステークホルダーとの良い関係を築くことの方が重要だと考えているのではないかと思います。

日本の積極的な参加が不可欠

GRIではマルチステークホルダー・インヴォルブメント(あらゆるステークホルダーに参加してもらうこと)を重要視されていますが、GRIで開催されているワーキング・グループなどへの日本からの参加状況はいかがですか?

持場  日本ではGRIガイドラインを参考にして報告書を作成する企業数が他国と比べ比較的多いのですが、ホームページ上の意見交換への発言の書き込みやワーキング・グループへの参加が極端に少ないのが現状です。GRIの活動を側面から応援してくださる組織のために「ステークホルダー団体」と呼ばれる賛助会員制度も新設しましたので、日本企業には是非もっと積極的にGRIの活動に参加していただきたいと思います。私からもできる限り日本語で情報を提供していきますので、持続可能な社会の実現に向けたグローバルな議論への参加機会を活かして欲しいと願っています。

Ernst  私たちは各分野から偏りなくステークホルダーに参加していただきたいだけでなく、地理的にもいろいろな国から参加していただきたいのです。言葉の問題があるかもしれませんから、通訳・翻訳などのシステムも考えていかなければならないと思っています。今のようにアジア、特に日本からの参加がほとんどない状態で私たちが活動していくことは、グローバルなガイドラインを築いていくにあたって、非常に問題があります。このままでは、日本企業の意見が反映されないままガイドラインの作成が進んでしまうかもしれません。が、それは決して私たちが願っていることではありません。私たちのガイドラインは世界中どこの国にとっても適切でなければならず、もちろん日本の市場にも適応するものでなければなりません。東京にはGRI日本フォーラムという組織があり、勉強会などを開いて熱心に活動していますから、そういった場にも是非積極的に参加いただくことを期待しております。

PROFILE

エルンスト・リヒテリンヘン

グローバル・リポーティング・イニシアティブ(GRI) 代表

2002年11月よりGRI代表に就任。
旧ザイール、ドミニカ共和国、コロンビアなどで途上国開発に長年携わり、1995年から2001年までオックスファム・インターナショナルの初代事務局長を務める。
オランダ人だが、母国に暮らすのは24年ぶり。

持場智雄

グローバル・リポーティング・イニシアティブ(GRI) プロジェクト・マネジャー

2002年10月より現職。新聞記者を経て、英サセックス大国際開発研究所で修士号を取得。
その後研究の傍ら、トリプルボトムラインの概念を提唱した英サステナビリティ社研究員、最貧国の債務帳消し運動「ジュビリー2000」のコーディネーターなどを務める。

2004年1月14日

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